第6話 公彦の転機

公彦の物語が続く。


東京に引っ越してから1週間ほどたった日曜日。

今日は天気もいいし、バイクに乗ろうかと思いながら、

公彦はアパートの窓を開けた。

 

この時の部屋は、目の前にバイクを置けるスペースが

あって、入居を決めたアパートだった。

 

京都から持ってきたGPZ400

この時RZ250はまだ新潟に置いてあった。


窓の外に・・・あれ?

バイクがない?

オレ、違う所に置いて・・・ないよな。

 

寝起きの頭はなかなか動かない。

パジャマ姿で窓辺にボーっと立つ公彦。

 

もしかして・・・盗まれた???

 

眠気が一気に吹き飛び、いろいろなことを考える。

 

プロの仕業か?多分違うな。

そういえば、うっさい原チャリがウロウロしてたよな。

ここら辺は治安もイマイチだよな。

 

すぐに着替え、交番に駆け込んだ。

あらかた説明し、書類を書き、自宅へ戻る。

 

近所の小僧が盗んだのかもしれないと、

その日は1日中、自転車であちこちを走りまわり、

バイクを探した。

 


バイクは、最後まで出てこなかった。

 



バイクの無い生活は、果てしなくヒマである。

行動範囲も極端に狭い。

盗まれたストレスと、バイクに乗れないストレス。

お金はないのだが、やっぱりバイクは欲しい。

やけくそ気味にローンを組んで、新車を購入した。

 

YAMAHA DT200WR

モタード仕様にと考えていた。


しかし、モタードは結構お金がかかる。

結局ノーマルのまま、街中を走っていた。

 

都内の道は、

排気量よりスタートダッシュが得意な車両が速い。

これはこれで、結構楽しいものだ。

 

ある日、バイク屋に顔を出したら

「土の上を走ってみない?」と誘われた。

 

オフロードには、興味はあったが走れる所を知らない、

せっかくバイクもあることだし、走ってみたい気もする。

他の人も、初心者ばかりでお遊び程度だと言う。

次の休日に、連れて行ってもらうことにした。

 

見事、オフロードにハマった公彦。


土の上は、こんなに面白いのか。

バイクがまったく思い通りに動いてくれない。

スピードを出せない。

それが、こんなに楽しいなんて。

 

ちょうどオフロードブームな頃。

あちこちで草レースが開催されていた。

 

タイヤが買えず、ノーマルタイヤのまま、参戦。

毎回転びまくり、スタックしまくりの公彦。

貧乏人は、根性のみで走るのである。


土の上は排気量より経験がモノを言う。

小中学生のほうが早かったりするのだ。

子どもは自分より速い大人としかしゃべらない。


「おじさん、結構速いじゃん。」

初めてしゃべってもらったとき、ちょっと嬉しかった。

けど、タメ口だったな。

(しかもおじさんって・・・)


体力もつき、走り方も分かってくると、

エンデューロ(耐久レース)で2時間、3時間

1人で完走できるようになる。


走るほど、上達していく自分がはっきり分かる。

土の上は、面白い。

男の子なら夢中になる場所だ。


そのうち入賞出来るようにもなり、ますます

エンデューロにハマっていった頃だった。


美也子も一緒にレース場へ行っていた。

防寒具、長ぐつ、おやつは必需品である。


転んだり、踏まれたりしている公彦が心配で、

3時間ずっと見守っていたのは、最初の頃だけ。

草レースの要領が分かって来ると、

スタートと給油、ゴール時間だけ手伝いをし、

あとは昼寝と読書を満喫していた美也子だった。


その後、美也子もオフロードにハマるとは、

この頃は、夢にも思っていない。

 

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