第12話 そんな時もある

二間の小さなアパートで、2人の生活が始まった。


新しい生活と、新しい仕事。

公彦も美也子も、慣れるのに必死の毎日である。


緊張と疲れがとれない。

定休日は寝ているだけで終わってしまう。


大好きなバイクに乗る気力が出ない。

でも、もうすぐ冬。

新たな生活パターンができるまで、

のんびり慣れていこうかと思った矢先、


美也子がぎっくり腰になった。


何もできない美也子。

負担が増える公彦。

本当にバイクどころではない。


体調不良は、心も不良になる。

結婚って、なんなの?

なんでひとつも思い通りにならないの?

マイナス思考どっぷりの美也子。


公彦に八つ当たりを始める。

心の広い公彦はかなり我慢をするが、

やはり最後は怒る。そして、ケンカ。


落ち着くと美也子は反省するが、

またそのうち八つ当たり。

そんなことを繰り返しているうちに、

美也子の体調が戻ってきた。

 

今までの分も頑張らなくちゃ!と張り切り、

家事や仕事を再開し、しばらく経った時。

 

美也子が倒れた。

 

「明日、入院の支度をして来てください。」

 

緊急で行った病院の医師が、淡々と言う。

検査をしないと、詳しくは分からないけど、

入院しましょうと言う。

 

何?なに?なに?

えっと、私、なんなの?

これは夢?意味分からない!

 

動揺しても、それは現実のことだった。

 

翌日、入院してすぐにいろいろな検査をし、

夕方、医師に呼ばれた。

ここでは病気の詳細は省くことにするが、


「3日後に、手術します。」と言われる。


病気は治したい。だけど手術は想定外。

不安だらけの頭の中。

 

どうしよう、どうしよう・・・。

手術するしかないのは分かっている。

でも、何かを考えずにはいられない。

考えてもどうにもならないのだが。


手術は無事に済み、

目覚めた美也子を、激痛が襲った。


うなりながら思う。

時代劇。切腹はイタそうと思っていたけど、

やっぱりイタイぞ!!!


1週間後、院内を歩いてヨシと、許可が出た。

階段を降りようとしたら、ヒザに力が入らない。

手すりにつかまり、ヨタヨタと降りる。

筋肉はこんなにすぐ落ちちゃうのかと、驚いた。


それから半年ほどは、通院しながら

無理をしない生活を送っていた。
病院から「もう来なくていいです」と言われた頃には

随分体力も戻り、リハビリ的にセローで

近所を走れるようになっていた。



美也子にとって新婚というと、

病気&手術という、あまりよろしくない時を思い出す。

でも、今振り返れば悪いことばかりではない。


健康じゃなければ、何もできないと思い知ったし、

年配の方や病気の方、いわゆる弱者の方々へ

少しだけ心を配れるようになったと思う。

そばにいてくれる人もいた。


さすがの公彦も、生活に慣れることと

美也子の面倒で精一杯だった。

バイクは時々乗る程度。

バイクとの距離が一番遠かった新婚時代。


家族が健康で笑顔でないと、

バイクを楽しめないと、公彦は言う。


だから、美也子が早寝遅起きでも、

公彦は文句を言わない。

倒れられた方が大変と知っているから。



美也子がだいぶ元気になった頃、

今の住まいに引っ越した。

ガレージはないが、バイクをイジれるスペースがあり、

公彦のバイクライフが復活する。


夕飯を食べた後、ツナギに着替え「じゃっ!」と

毎晩バイクをイジりに出て行った。

 

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